【Phantom】FIRE（早期リタイア）に待ち受ける壁と現実【書評】

はじめに

皆さんは「FIRE」という言葉を聞いたことがありますか？
「FIRE」とは「Financial Independence, Retire Early」の略で、
日本語では「経済的自立と早期リタイア」という意味になります。

投資などで、労働収益に頼らずに生活できる状態になることですね。
FIREって、すごく夢がありませんか？

お金がお金を稼いできてくれるのであれば、好きなことを好きなだけやって過ごすことができますよね。
今回は、そんなFIREを目指す主人公の、生々しく、リアリティーがあり過ぎてグロテスクにも思える小説、羽田圭介著『Phantom』を読んだので、じっくり書評したいと思います。

ここからはネタバレを含みます。
物語の核心に触れる直接的なネタバレは避けますが、読了前にお読みになると最高の読書体験を損ねてしまうおそれがあります。
ぜひ一度、作品を最後まで読み終えてから、お読みいただくことをおすすめします。

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あらすじ

外資系食品メーカーに勤める32歳の華美は、年収250万という年収の低さから、将来のFIREを目指し倹約を続け米国高配当株に投資をしています。
彼女の目標は、現在の年収と同じ配当収入を生む「分身」を構築することでした。

一方、恋人の直幸は華美と対照的に、「使わないお金は死んでいる」と華美を嘲笑し、経験にこそ価値があると高価な買い物を繰り返します。
対照的なお金の価値観が二人の間に亀裂を生み、やがて直幸は“物々交換の理想社会”を掲げる謎めいたオンラインコミュニティに傾倒していきます。

その集団は次第に危険なカルトと化し、直幸は全財産を寄贈して「ムラ」での共同生活に傾倒。
華美との連絡は途絶えてしまいます。

残された華美は、直幸の存在の大きさに気づき、これまで築き上げてきた「分身」の力を用い、直幸を取り戻そうと決意します。

「お金」「信用」「幸福」。人は何に投資すべきなのだろうか。

エピソードの数々

この小説では、あらすじにある大まかな流れの中で様々な考えさせられるエピソードが差し込まれています。
その中でも、FIREを目指し倹約に重きを置きすぎたが故の失敗には、強い衝撃を覚えました。

結婚式二次会：費用1万2460円

華美は、友人の結婚式二次会の招待を受けた際、会費と交通費を合わせた費用1万2460円を支出するかどうか悩みます。

もしこの金額を年利５％で運用すれば、30年後には7倍以上の7万6123円になると計算し、「続いているかわからない友人とのつながり」と「未来の7万6123円」を比べてしまい、
結果として華美は、出張と偽って欠席の返事を送ります。

結婚式二次会を断ったその日、華美はうっかり遊んでいるところの写真をSNSに投稿してしまいます。
この失態が原因で、華美は楽しみにしていた毎年恒例の友人間でのバーベキュー会に誘われなくなってしまいました。

自分は約一万三〇〇〇円をケチったあまりに、友人たちからの信頼を失ったと華美は思った。
『Phantom』p.29

貧乏くさい億万長者

無料の投資セミナーに参加した華美は、老男性3人と出合います。
老男性たちは、お茶やコークのペットボトルに水道水を入れたものと手製のおにぎりを持参し、安物の服とダサい靴を身に着け、華美と同じ格安のスマホを持っていました。

3人の老男性の倹約話を聞き、「貧乏くさい」と思う華美でしたが、なんと老男性それぞれの金融資産が時価総額にして1億円を超えていると聞いて驚きます。
そしてその姿が最近目にした”なにか”に似ていると思ってしまうのです。

ブランド品も買わず友達づきあいも制限し、分身のような配当システムを作った先に待っているのは、生活保護受給者たちと同等レベルの配当生活だというのか。
『Phantom』p.82

感想・まとめ

「お金」「信用」「幸福」
これらは互いにどれかを消費すればどれかが手に入る、トレードオフの関係であると思います。
日々「幸福」を売り、「お金」を得るため働いている我々にとって、「分身」がお金を稼いできてくれれば、幸福を享受できるのではと考えるのは自然なことかもしれません。

でも難しいのが、お金を稼ぐまでの道のりです。
「信用」を売り、「幸福」を売り、倹約に倹約を重ねたうえで得た「分身」による配当金生活は、
果たして、いい生活といえるのでしょうか？
『Phantom』は、そんな問いを投げかけてくれるとても興味深い一冊でした。

私はこの小説を読んでなお、その生活はいい生活ではないかと感じます。
16から18歳になるまでの2年の引きこもり期間を経て、親の金で疑似配当金生活を送っていた私にとって、ネット上で友達関係を完結させ、無料のオンラインゲームを一日10時間やる生活はなかなかに楽しい時間でした。

しかし、普通の人はそうはいかないことでしょう。
事実、私も今年18になったことをきっかけに自立し、一人暮らしと労働にいそしんでいます。
毎日10時間のオンラインゲームもきっぱり０になりました。
これはこれで充実していると満足していると感じています。

大切なのは、経済的自由を得た後の未来を思い描くことかもしれませんね。
労働が人生の充実に貢献しているという盲点。
稼いだお金で贅沢ができているという盲点。
倹約が体験を犠牲にしているという盲点。

さまざまな見えていなかった部分が、幸福を邪魔するのではないでしょうか。

私はたまに、金融庁のつみたてシミュレーターを使って月10万を積み立て続けたらいつFIREできるかを考えます。

めちゃくちゃ好調で想定利回りが年利7％でいけた場合、20年で5000万溜まる計算ですね。
19歳から始めたとして、安月給を倹約し続け、積み立て続けた末に、出来上がるのが年収250万の分身です。

39歳無職独身配当金暮らしの引きこもりとか、笑えませんね。
宝くじでも当たらない限り、配当金生活は窮屈な暮らしになりそうです。。。

はあ、、、結婚して子供もいて、マイホームがあって、、、そんな暮らしがあれば分身なんて要りませんね。
これ全部叶えてる両親っていったい、、、

コツコツ無理ない範囲で投資して、大切な時には「人」と「体験」にも投資しなければならないなんて、人生は大変ですね。
セミリタイアみたいな、仕事しつつ、その量を分身にちょっと負担してもらうくらいがしあわせに生きられそうです。

誰か結婚してください。そして宝くじ買いたい。当てたい。ということで、今回は締めたいと思います。

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